法人として設立し、事務所と自宅を分けて仕事をしている方には発生しない問題ですが、個人事業者として事業をしている方の多くはこれにあたりません。事務所の一角を仕事場にして仕事をしていたり、1階部分が事務所になっている、事務所と個人宅の区切りがないという方も多いことでしょう。
そこで問題となるのが、確定申告時に行うべき家事按分です。知らなかったでは済まされない脱税を避けるためにも、家事按分の考え方とポイントを知っておきましょう。
個人事業主ならではの家事按分の基礎
まずは個人事業主が確定申告で経費として計上するにあたって、知っておきたい家事按分の基礎とそれが可能な科目にはどのようなものがあるかを見ていきましょう。
個人事業主の特権!家事按分とは?
冒頭でも少しふれましたが、自宅と事務所が一緒になっている場合に起こるのが生活費と事業費が混ざり合ってしまうことです。すべてが生活費ではないものの、当然のことながらすべてを事業費にしてしまうと非合理的です。
そこで、生活費と事業費に分ける必要が出てきます。その際に、もっとも理になかった按分比率というものが必要になります。それは個人事業者ごとに決めることができますが、税務署の職員が見た際に納得が出来る按分方法をとっておく必要があるのは言うまでもありません。
家事按分が可能な主な科目とは?
家事按分が可能な科目にはどんなものがあるのかを以下にご紹介します。
・地代家賃、固定資産税、マイホームの減価償却費、保険料、住宅ローンの金利
・電気代、ガス代、水道代
・携帯電話代、固定電話代、ファックス代、インターネット代
・自家用車の購入費、修理費、自動車税、車検代、ガソリン代、駐車場代
こうやってみると実に多くの物が、家事按分できることが分かりますね。現在按分していないものがあれば、是非按分を検討してください。
家事按分が可能な5つの科目と考え方
次に、按分が可能な5つの科目ごとに、どのような観点で按分する方法があるのかを見ていくことにしましょう。
1.自宅兼事務所の「家賃」
まずは、家賃を按分する場合です。按分の方法として考えられる方法は2つあります。
1つ目は、使用面積で計算する方法です。例えば、3LDK(80㎡)の間取りのマンションに住んでおり、毎月の家賃が10万円だとしましょう。そしてそのうち1部屋(8畳:約14㎡)を仕事に使用している場合の計算は以下となります。
100,000×(14÷80)=17,500
つまり17,500円が経費にできる額となります。
2つ目は、仕事に使用している時間で計算する方法です。これは例えば駐車場代などでよくある考え方です。業務を行っている時間帯以外の時は、使用時間にカウントされないため、パーセンテージを割り出して按分するのが適当でしょう。
また、家賃関係の経費は厳密にいうと稼働日も勘案して計算することも大切です。
2.パソコンでも消費する「電気料金」
2つ目は電気料金の按分です。電気料金として使用するのに最も一般的なのは、お部屋の電気です。これを按分する方法も主に2つあります。
1つ目は、1週間のうちの仕事に使用している時間帯から計算する方法です。月の電気代の請求額に業務時間で使用している割合分をかえると金額が割り出されますね。
2つ目は、コンセントの数を利用して計算する方法です。まずは、自宅にあるコンセントのすべての数を数えます。その中から、業務にのみ使っているコンセントの数を割り出します。その比率を月の電気代にかけると業務で使用する電気代が割り出されるというわけです。
3.業種によって使える「ガス・水道費」
3つ目は、ガスや水道料金です。これは事業をするのに直接的に関係するものであれば、経費にすることができます。例えば、飲食業や料理教室などがそれにあたるでしょう。
明確に説明が出来ず、仕事の昼休みの食事を作るといったものは経費にはなりづらいため、注意が必要です。間接的ではなく、直接的であることがポイントです。
4.ネット通信に使用する「通信費」
4つ目は通信費です。ネット社会が当たり前になっている今、事業においても調べものなどにネットを使用することも多いものです。また、タブレットやスマートフォンなどを利用することもありますね。
これらの場合、事業に使用していると明確に説明が出来れば経費にすることが出来ます。ただし、税務署によっては認識が副業程度であり経費にあたりづらいと判断することもあります。そのため、特に携帯電話などは事業用と個人用は分けて持つことをおすすめします。
按分方法は使用している日数もしくは時間で計算する2つの方法があります。前者は1週間に使用する日数から月の使用日数を算出し、インターネット代金にかけて計算します。後者は、1週間の平均的な使用時間を割り出すことで比率を算出して計算します。
5.営業活動にも使用する「自動車関連費」
5つ目は自動車に関連する費用です。自家用車を営業活動に使用しているという方に按分可能となります。
この場合も計算方法は2つあります。ガソリン代に着目してお話していきましょう。1つ目は、走行距離から計算する方法です。この場合、走行距離を都度記録して残す必要があります。さらに、ガソリン1リットルで走行可能な距離数を把握しておかないと計算ができませんのでご注意ください。
2つ目は、1週間に車を使用した日数を計算し按分比率を出す方法です。この場合、走行距離の記録の手間は省けるものの、現実的には前者の走行距離で算出するのが合理的でしょう。
知っておきたい家事按分の仕訳と注意点
経費にすることが出来る按分比率の考え方が分かったところで、今度は帳簿上どのように仕訳をするべきかについてご説明します。
家事按分をした時の仕訳は?
では、家事按分をした時にどのように仕訳をするのかご紹介していきます。
家賃10万円の支払いの中で、事業用が30%、残り70%が生活用に使用している面積だと仮定しましょう。この家賃は事業用の銀行口座からすべて引き落とされていることが前提です。
(借方)地代家賃 30,000 事業主貸70,000 (貸方)預金100,000
複合仕訳を行う際は上記の仕訳となります。
単一仕訳の場合は以下を参考にしてください。
(借方)諸口 100,000 (貸方)預金100,000
(借方)地代家賃 30,000 (貸方)諸口30,000
(借方)事業主貸 70,000 (貸方)諸口70,000
使用する会計ソフトが単一仕訳しか利用できないものの場合は、上記の方法を取りましょう。
家事按分をする際の注意点
家事按分をする際に注意しておきたいポイントをご紹介します。本文中でも幾度か触れてきましたが、家事按分をする際に必ずこの按分計算をしなくてはいけないというものはありません。しかし、ご紹介した按分方法を多くの方が取り入れており、合理的であるので税務署に指摘されにくいものであることは確かです。
それらを踏まえた上で、ご自身の事業と生活の比率、事業内容などを鑑みて、合理的かつ客観的な視点から説明可能かどうかを検討してください。
また出来るだけ経費に多く計上したいという気持ちがあったとしても、明らかにやり過ぎだと感じる按分比率を出すのは避けましょう。一度疑われると、信用を取り戻すのは大変です。
今回は個人事業主の方ならではの家事按分の考え方と按分方法について詳しくご紹介しました。難しく考えることはありません。納得させられる按分方法を行っていれば、指摘されることはないので、ご自身で明確なルールを作っておくことをおすすめします。