ご家族に不幸があり、お葬式を執り行うとなった時、突然のことで気持ちの整理もつかず終わってしまいがちです。しかしその後に行う相続税の関係で損をしないために、知っておいていただきたい葬儀費用と税金との関係について詳しくご説明します。
葬儀費用は課税対象?
ご存知ない方もおられるかもしれませんが、葬儀費用は基本的に非課税です。
このことは、国税庁のホームページ内の〈相続と税金〉、No.4129 相続財産から控除できる葬式費用に下記の通り記載されています。
「相続税の計算は、一定の相続人と包括受遺者が負担する葬式費用を遺産総額から差し引きます。」
引用元URL:https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4129.htm
葬儀費用が相続税から差し引くことが出来る費用であるということが分かります。ただし、葬儀費用に認められないものは課税対象になるということも知っておかないといけません。
相続財産と葬儀費用の関係
上記でも少し触れましたが、相続する財産と葬儀費用との関係性についてもう少し詳しく見ていきましょう。
亡くなった方から相続する財産は課税対象となりますが、遺産総額から差し引くことが出来る債務が2つあります。
1つ目が、死亡時に確実にあったとされる債務です。例えば、借金や亡くなった方に課されかつ納付すべき所得税などの税金がそれに当たります。
そして2つ目が、葬儀費用です。葬儀費用自体は亡くなった方の債務ではありません。しかし相続税の計算においては、遺産総額から差し引くことができるものです。
ちなみに葬儀委費用や債務などを差し引いた後の、実際に相続する財産額によっては相続税が発生しないこともあります。これは相続税にも確定申告にも存在する基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」存在するためです。つまり1人で相続すると仮定すると3,600万円以下であれば発生しないのです。
葬儀費用は控除対象
相続税の節税をする意味合いにおいて、葬儀費用が控除対象であることは非常に大きなメリットを持っています。
現在日本で行われているお葬式にかかる費用はすべて合わせると200万円ほどだと言われます。家族葬などになると値段はもう少し低くなりますが、決して安い額だとは言えません。これだけの大きな出費をした上に、本来払わなくていいはずの葬儀費用分の相続税まで支払うのは割にあいません。
ただし知っておいていただきたいのは、葬儀費用を相続財産から控除することが出来るのは、遺産の相続人及び遺言などで財産を分け与えられるべき包括受遺者にあたる人です。また相続人や包括受遺者であったとしても、相続時に日本国内に住所がない場合は、葬儀費用の控除ができなくなる場合があります。
税法上の葬儀費用
葬儀費用は相続税からすべて差し引けるのかというとそうではありません。一般的に葬儀費用と捉えられるものと税法上の葬儀費用とでは異なる部分もでてきます。
さらに、お葬式のスタイルも1つではありません。仏式、神式といった日本古来のものもあればキリスト式スタイルなどもあります。さらに、一般葬、家族葬、密葬などもあれば社葬と種類も一様ではありません。そのため、一律に定義することが難しく相続税法には詳細に記されてはおらず、社会通念に照らし合わせて個々の判断をしていくようになります。
ただし一定のルールがないと相続税の計算に支障をきたすことから国税庁が定めているルールに従って判断します。
いずれにしても、控除申請をするために領収書は捨てずに保管しておくことをお勧めします。
税法上の葬儀費用にあたるもの
では、国税庁が定めている葬儀費用にあたるものを具体的に見ていきましょう。
・遺体の捜索や遺体や遺骨の運搬費用(事故、事件などで死亡した場合)
・遺体や遺骨の運搬費用(病院や介護施設などから自宅及び葬儀場所までの費用)
・お寺などに支払う読経料
・火葬や埋葬、及び納骨費用
・葬式の前後にかかった費用(お通夜の費用など)
葬儀を仮葬式と本葬式と2回行った場合は、両方の費用が葬儀費用として認められます。
税法上の葬儀費用にあたらないもの
一方、税法上の葬儀費用に認められていないものも知っておかないといけません。
1.お香典返しの費用
これはお香典を受け取った場合と受け取らない場合でも変わってきます。
お香典を受け取った場合はその額が社会通念上相当だと認められる場合、贈与税非課税対象となります。そこで非課税対象のものの返礼費用であるため、葬儀費用として再度非課税にすることはできません。
逆に香典を受け取らない場合で、お香典返しなどの返礼品をする場合は葬儀費用にあたります。そのため、控除対象になります。
2. 法会に要する費用(初七日や法事など)
亡くなった方のその後の供養のために営まれる儀式は、葬儀とは意味合いが異なります。そのため、葬式以降の法会に関する費用は葬儀費用とはなりません。
3.墓地及び墓石に要する費用
墓地及び墓石に要する費用は、相続税において非課税対象とされています。そこで二重に非課税としないために、葬儀費用には含まれません。また、葬儀費用と勘違いしやすい位牌の彫刻や墓石の彫刻も葬儀費用にはなりません。
4.死亡解剖などに要した費用
死因の特定などのために行われる死亡解剖などにおいても、葬儀とは無関係であるため、葬儀費用にあたりません。
葬儀費用の注意ポイント
葬儀費用であれば非課税となるといっても、注意しておかないといけない点もあります。心づけの額について、葬儀費用の証明方法や税法上のお香典の扱いについてご紹介します。
心づけは課税になることも!
葬儀の際に、お心づけとして支払うことがります。霊柩車の運転手さんや火葬場のスタッフさんに対してなど地域によって様々ですが、この額はいくら払っても非課税ではありません。
これらの費用に関しては、基本的に「社会通念上相当と認められる額」という考えが根底にあります。
つまり、あまりに高額な心づけを渡すと葬儀費用として控除はされません。相場は2,000円〜5,000円程度です。高くても1万円までにしておかないと課税扱いとなるので注意が必要です。
領収書がもらえない葬儀費用の証明
上記の心づけもそうですが、葬儀費用とはいえ領収書がもらえないものも決して少なくありません。お寺に支払う御布施なども同様です。
この場合、葬儀費用として証明するために、メモを取っておきましょう。
支払日、支払先、支払い目的、金額を記載しておき、後で領収書と一緒にまとめておいてください。このメモがあれば十分葬儀費用として証明が可能です。葬儀後に待っている相続税の申告までに、一覧にしておくとスムーズに申告をすることができますよ。
税法上の香典の扱い
最後に気になる香典の扱いについてご説明します。
香典が収入となるのではと懸念されている方もおられるでしょうが、収入には当たりません。それはお香典の本来の意味が「お香を持参する代わりに用意した現金」であるためです。
そこで、お香典は収入とはならず所得税の対象にならないことから確定申告は不要です。また、相続税の対象にもなりません。
ただし、いただいたお香典が50万円を超えるなど高額である場合は、一時所得とみなされる場合があるので注意が必要です。
また社葬を行う場合の香典のうち法人として受け取るため、利益として計上され課税対象となります。一方、個人として受け取る場合は非課税です。
ご紹介してきた通り、社会通念上の葬儀費用であれば非課税となります。そこで、損しないためにも出費に関しては忘れずに領収書かメモを取りましょう。